Secret Port 第1隻 | Secret Port ~むつむらの小説~

Secret Port 第1隻

この話はSecret Portの1~20をまとめたものになります。まとめて読みたい方はこちらをお勧めします。

ープロローグー

 キーンコーンカーンコーン授業終わりのチャイムが学校中に鳴り響く。

この瞬間を待ちわびていたかのように生徒たちは帰り支度を整え、数人のグループに分かれて、帰る者、部活に行く者、それぞれの放課後に向かって一斉に教室を出ていく。

「湊、また明日な!」

サッカー部らしき格好をした少年は湊という少年に別れを告げる。

「あした土曜だから、月曜な!部活がんばれよ!」

いたずらっ子のような笑顔であいさつに答える。

誰もが一度は経験したことがあるだろうこの返しに少年はあきれ顔で苦笑いを浮かべながら、

「はいはい、また月曜日ね。」

そう言い残すと、部活へ向かってかけていった。

「湊、帰るぞ」

4人が湊を待っている。湊を含めたこの5人組がいつものメンツだ。

男3人、女2人で構成されたそのグループは部活に行くわけでもなく、校門を出て帰路に就く。

「今日は何する?」

彩羽がみんなに問いかける。その問いかけに楓は、

「依頼が来ているか次第でしょ」

と返した。

何の依頼については後々わかるからおいておくことにしておく。

5人は目的地に向かって歩いていく。帰り道はごく普通の住宅街だ。

その閑静な住宅街には昔ながらの日本風の家から、最近できたばかりの洋風の家までたくさんある。

閑静な住宅街とはいってもつい最近1か月前くらいまでは何かの聖地巡礼をする人たちがたくさんいてにぎわっていた。

住宅街の中の一角にある古風な家に5人は入っていく。

湊  「おばあちゃん、ただいま!」

祖母 「今日もみんなと一緒かい?」

湊  「うん。」

いつも通りの会話が繰り広げられると、5人は階段を上って湊の部屋に入っていった。

ここは湊のおばあちゃんの家だ。

5人はいつも学校が終わるとここに帰ってくる。湊たちは部屋につくと荷物を置くわけでもなく何かを待っている。

湊が壁の一部分を横にスライドさせると、小さなパネルが出てきた。

そのパネルに湊が人差し指をあてると「ピッ」という音と同時にパネルの上に『認証」という文字が浮き出た。

すると壁の一角が上に動き始め、新たに道ができた。道の先には上へつながっている階段があるようだ。

5人がその階段を上っていくとまたドアがある。

そのドアも湊が指紋認証して、ドアを開くと、そこには白を基調とした広い空間が広がっていた。

部屋の中心には大きいダイニングテーブルがあり、たくさんの機械が置いてある。

家の中でいうとここは屋根裏の部分に当たるがこのことを知っている人は少ない。

湊のおばあちゃんも知らないはずだ。湊のおじいちゃんが数年前の改築の時にみんなに内緒でつくらせたらしい。

おじいちゃんは昔から機械をいじるのが好きで、少年のような心を持ったままの人だったから、秘密基地のようにしたいということでハイテクな隠し部屋を作ったらしい。

部屋をつくったのはおじいちゃんだけど中の内装については湊たちがデザインした。

壁には180度スクリーンが広がっている。

湊  「あれ?姉ちゃんもういたの?」

?? 「今日は学校が早く終わったからね」

湊が姉ちゃんと呼ぶその人は湊の姉の日葵である。

日葵もまたこの部屋の存在を知る人物だ。

おじいちゃんの血を色濃く受け継いだ彼女は小さい時から誰に教わるわけでもなくプログラミングをしていた。

彼女のプログラミング技術はレベルが高く、この部屋のセキュリティも彼女が構築した。

彩羽 「日葵さん。今日は依頼来てる?」

日葵 「んー?あぁ今日は何も来てないよ。」

ここでも出てきた依頼とは6人が行っているサービスに関係するものだ。

サービスとはいうがそんなにたいそうなものでもない。

6人でSecret PortというWebメディアを運営している。

このSecret Portにお願いを書き込んで、送信すると湊たちのもとに届く。

その届いた依頼の中から湊たちが興味のある依頼だけを解決するというサービスだ。

もちろん報酬も受け取る。そもそもSecret Portという名は湊が名付けた。

ちなみに湊たちが今いるこの部屋もSecret Portと名付けられている。

秘密基地の英訳のSecret Baseと湊(みなと)= 港の英訳Portを合わせてつくられた造語がSecret Portだ。

ちなみにPortのほうには港のほうの人々が集まる場所という意味もあると湊が説明して半ば強引に名前を決めた。

湊  「姉ちゃん今日はなんか試すのないの?」

日葵 「んー・・・あぁそういえばこの前のやつ改良してあるからその辺で試してくる?」

湊  「えーマジで?どこまでできるようになったか楽しみだなー!どこにあるの?」

日葵 「そこの引き出しの中にあるよ!颯くんのメガネも一緒にあるから」

颯  「ありがとうございます」

 引き出しの中から湊は5つのケースを出してみんなに配った。それぞれが中身を出して付けていく。          

ーいつもの日常ー                     

5人は家から出て、目的地までの道のりを決めた。

今回の目的地は徒歩で15分くらいの距離にある土手だ。

家から目的地までひとりひとりが別の道を通り歩いていく。とは言ってもただ歩くわけではない。

今回の目的は家の周りのストリートビューの地図を作ることだ。

今日葵がつくっているアプリに必要になるらしい。

さっきのケースに入っていたコンタクトレンズがカメラの役割をはたしていて、装着者が見ている景色をリアルタイムにパソコンに転送して録画、閲覧することができる。

このコンタクトレンズを発明したのも日葵だ。これを聞いたとき、湊たちは絶対売れるから、売りなよといったのだが、日葵はこれ単独じゃ使い道がないし、別に趣味で作っているだけだから。と言ったので市場には出回っていないSecret Portのメンバーだけのオリジナルのコンタクトレンズだ。

ちなみに作った当初はカメラの役割だけしかなかったのだが、日葵がアップグレードをしたため、コンタクトレンズが液晶の役割を果たせるようになった。

そのために、コンタクトレンズに映像を転送すれば、転送された映像をコンタクトをつけているだけで見ることができる。日葵が土手までのルートをそれぞれに転送する。

「みんな準備はいい?」

5人がつけているイヤホンに日葵の声が届く。

「準備いいよ!」

5人は土手に向かって進んでいく。

湊  「今日って何か宿題出てたっけ?」

颯  「数学と英語。湊はいい加減先生の話聞くようにしたほうがいいと思うよ」

彩羽 「ほんとに!今日もまた授業中何かしてたでしょ!」

有紗 「そのくせどうでもいい話だけは聞いてるんだから」

湊  「なんで宿題あるか聞いただけなのにお説教されなきゃいけないんだよ!

亮、宿題終わってる?」

亮  「うん終わってるよ」

颯  「なんで学校から直接ここにいるのに終わってるわけ?」

亮  「授業暇だから、宿題出そうなところを先にやっておいた」

湊  「さすがだぜ。明日の朝写させて」

亮  「ダメって言ってもいつも勝手に写してんじゃん」

何気ない会話を続けながら、土手に向かっていく。

珍しく車どおりが激しい。会話の中にノイズが聞こえる。

すると突然

ドン

落下音が聞こえた。

彩羽 「誰かイヤホン落としたでしょ。」

だれも特に気にもせずに土手に向かっていく。会話も途切れ、静かに進んでいった。 

湊以外の4人は土手に到着した。

颯  「湊―、聞こえるー?お前以外みんな来てるんだけど」

少し待っても湊は来ない。 

亮  「もしもし日葵さん?湊が来ないんだけど今どの辺にいるかわかる?」

湊の現在地を確認してもらう。

日葵 「ちょっと待ってね。んーと湊の映像はっと。あれおかしいなまたバグかな?映像は受信できてるのに、映像が暗いんだよね。GPSは・・・あれ?土手とは別の方向に進んでいってる。車にでも乗ってるのかな。」

有紗 「え?湊どこ向かってるの?」

日葵 「すこし調べてみるから、みんな一回部屋に戻ってきて」

その時はまだ誰も今起きていることに気づいていなかった。

ー非日常ー

4人が急いでSecret Portへ戻ってきた。戻る途中、湊に呼びかけてはみたが返事は帰ってこない。ちなみに部屋への指紋認証は湊だけでなく、メンバー個々人が行うことができる。

亮  「日葵さん!湊が今どこにいるかわかった?」

息を切らしながら亮が日葵に呼びかける。

日葵 「場所はわかったんだけど、なんでそこにいるのかわからないの。コンタクトからくる映像も真っ黒だし。」

亮  「日葵さん、映像が暗くなる前って見られる?」

日葵 「ちょっと待ってて。」

日葵がすごい速さでキーボードに文字を打っていく。

もちろん4人もそれなりにはプログラミングもできるが、それでも日葵の足元にも及ばない。

1分経たずにその映像にたどり着いた。湊のコンタクトレンズの映像には不審な人が映っていた。

湊の少し前で黒の大きい車が止まった。運転席の窓が開くと窓から地図を広げてみせている。

どうやら道を聞いているらしい。湊が運転席に近づいて行ったところで、コンタクトの上部つまり湊の頭上から何かかぶせられる。

その後の何が起こったかは映像からは確認できない。

この時とみんなのイヤホンから何かが落下する音が聞こえたタイミングがほぼ一致していることが分かった

彩羽 「つまり、湊は車から声を掛けられて、それに応えようとしたときに何かをかぶせられ経ってこと?」

彩羽が映像から得られた情報をみんなに確認する。

有紗 「イヤホンから聞こえたあの落下音は湊のイヤホンが落ちた時ってことだよね。」

有紗は情報を付け加える。

颯  「これって誘拐じゃね?」

颯がみんなの考えを口にした。

4人とも静かな様子だ。淡々と発言したがまだ現実を受け止め切れていない。

少しずつ今起きている現状を受け止め始め、それがパニックに変わっていく。

そんな中4人を冷静な様子に引き戻したのは、絶え間なく聞こえるキーボードの入力音だった。

ここにいる誰よりも早く何が起きているかを受け止め、今の自分ができる最善の手を考え、行動する。日葵がそうできたのは弟を誘拐されたことによる怒りと弟への信頼だった。

一刻も早く弟を救出するために入力していたキーボードのENTERキーを押したとき、部屋のスピーカーからノイズの後に誰かの声が聞こえ始めた。

女  「次はどうするの?」

女の声が聞こえる。

男  「そいつの親に連絡しろ。俺が話す」

今度は男の声だ。電波が悪いのかあまりよくは聞こえない。

この音声は湊が持っているキーホルダーから送られている。

先ほど湊の場所を突き止められたのもこのキーホルダーのおかげだ。

もちろんこれも日葵が作ったものだ。このキーホルダーにはGPS機能がついている。

ほかに盗聴器を改造して作ったヒアリングの機能もついている。ちなみにこのキーホルダーは湊だけではなくほかの4人+日葵も持っている。

もちろんただのメンバーの証として持っていただけで、このような事態を想定してもぅていた訳ではない。

GPSのほうは常時ONされていてその気になればいつでも場所の確認ができるが、ヒアリングのほうはキーホルダーの持ち主がONにしなければ音声を受信することはできない。

つまりあの状況の中、湊はスイッチをONにしていたということになる。日葵もそれを信じて、行動した。その結果がこの音声だ。

プルルルルル、電話のコール音が聞こえる。そして相手が出たのか話し始めた。変声機で声が変わっている。

男  「お前の息子は預かった。返してほしければ、おまえの夫が今までしてきたことをすべて世間に公表しろ。タイムリミットは今から1時間30分。それまでに公表しなければどうなるかわかっているな」

誘拐犯がこの電話をしている最中、日葵は自分の母に電話をしていた。

しかし聞こえてくるのは話し中の案内だけ。日葵はあきらめて次の手を考え始めた。

ーあの時なにがー

そのころ湊は今の自分が置かれている状況を整理し始めていた。

『えーっと確かみんなと話しながら土手に向かって行って、あーそうだ黒い車に乗ったお姉さんに話しかけられたんだった。車が左から通ってきて、俺の少し前で止まったんだっけ?で運転席の窓が開いて、地図出しながら道聞かれたんだった。すごいきれいな人だなーって思ってたら、後ろから急に何かをかぶせられて、たぶん車に引きずり込まれて、で今ここにいると。でも姉ちゃんだったらこの状況の音だけでもわかるはずだから、俺が犯人と話せればって思ったんだけど、この状況じゃなぁ。』

今、湊の置かれている状況はThe誘拐といった状況だ。

『椅子の足に足を縛られ、手は後ろで固定、口にはガムテープ、目には目隠しこれを誘拐と呼ばずに何と呼ぶ。っていうかテレビとかで見てても思うんだけど、もし鼻が詰まってたら、普通に窒息してるからね、この人たち殺人犯になり得るからね』

とツッコめるぐらいには湊は精神的な余裕が生まれている。もちろんこの状態になるまでに抵抗しようと思えばできる余地はいくらでもあった。

でも自分の現在地がわかっていない以上自分の力だけでは逃げ切ることは不可能に近い。

だったらあいつらが助けに来るのを待ったほうが、可能性は高い。

『とりあえずこの人たちと話せるように動いてみるか。でも何か大切なことを見逃している気がするんだよなー。』

そう思いながらも湊は何か話したそうに口をもごもご動かし始めた。

男 「何か言いたそうだな。お話だけでもできるようにしてやるか。お前にも関係のあることだしな。おい口のガムテープだけ取ってやれ。」

男は女に呼びかけた。

女 「わかったよ。ったく人使い荒いんだから」

女は湊の口のガムテープを取った。

男 「さぁ、言いたいことがあるんだったらどうぞ」

男の口調には何か余裕を感じる。

湊 「あのーなんで僕はここにつれてこられたんですか?」

湊は自分の立場を考え、下手から出る。

男 「お前の親父がよーく知っているはずだ。そうかお前は親父が何をしてきたか知らないのか。まぁ親父が条件をのめば、いやでも知ることになる。お前は自分が帰れることを祈るんだな。」

湊の父親は普通の会社員だ。人に恨みを買うような人ではないし、湊は疑問で頭がいっぱいになった。湊はメンバーに状況を伝えるためにさらに話し続ける。

湊 「なんで姉ちゃんもいるのに、僕が誘拐されたんですか?」

男 「は?何を言っている。お前は一人っ子だろ。誘拐されて頭でもおかしくなったか?」

湊の頭にさらに疑問が募る。??姉ちゃんのことは知らないのか?家族についてはちゃんと知らべてるだろうし、何かおかしいな。湊は自分で交渉をするために

少しの間考え始めた。

ー作戦会議1-

場所は戻ってSecret Port。

亮  「どうする?人数が2人みたいだからおれらが直接助けに行く方法もあると思うけど」

颯  「場所もわかってるんだし、おれも助けに行くほうに1票」

彩羽 「うん。もう助けに行こうよ。これ以上湊をあそこにいさせられないよ。」

亮  「助けに行くにしても、作戦は考えないとだよ」

有紗 「まず、場所の確認からだね。」

彩羽 「日葵さん、湊が誘拐されている場所の周辺のビューって撮ってたっけ?」

日葵 「このまえ、撮りに行った気がするからあると思うよ」

日葵はパソコンをいじり始めた。

日葵 「工場だから多分この辺だね。」

亮  「入り口は道路側に1つと、裏側に1つか。道路のほうの入口には車が止められるね。裏側には止められないから、犯人も湊連れて逃げるんだったら道路側のほうだね。ということは、道路側の入口をふさいじゃえば、逃げられることはなくなるはず。」

颯  「っつーことは、日葵さんに車で工場まで運んでもらっ・・・」

彩羽 「颯!なにか言ってるから少し黙って」

颯は自分の話をさえぎられて少し不満そうな顔をしたが、そんな場合ではないと湊からの音に耳をかたむけた。

先ほどの湊と犯人の男との会話が聞こえてくる。

有紗 「えっ?この人何言ってるの?日葵さんがいるのに?」

日葵はさらに違和感を感じ始めた。

恨みを持っている男の家族についてこれほどまでに調べない犯人がいるだろうか?それだけではない。

お父さんが息子を誘拐されるほどの恨みを買っているとはとても思えない。

まぁ仕事のお父さんは知らないから何とも言えないんだけども。どんなに考えてもこの違和感の正体はぬぐえない。

日葵 「とりあえず工場のほう向かおうか。ここにいてもこれ以上のことわからないから。」

日葵はノートパソコンを持ってSecret Portを出た。

颯  「亮!修学旅行で買ったこの木刀、武器として持っていったほうがいいよな?」

亮  「相手が拳銃を持ってたら気休めにしかならないけど持って行ったほうがいいんじゃない。」

颯  「はー。なんでそう一言多いかなぁ」

彩羽 「ふざけてる場合じゃないでしょ!早くいくよ!イヤホンは忘れないでよ!コンタクトも!」

颯  「彩羽までそんなこという?ねぇーこいつらどう思う?有紗―?」

有紗 「早くいこ」

4人は車に向かう。おばあちゃんが電話をしながらこっちに手を振っていた。

日葵の運転で湊の誘拐されている工場へ向かう。工場へ向かう間にも作戦会議が行われている。

亮  「犯人の数が今わかっている2人だけだったら、準備していけば助けられるだろうけどそれ以上に多かったら、俺らだけじゃどうしようもないよ。」

颯  「そんなことはわかってるよ!でも湊を助けなきゃいけないじゃん。それを考えるのが亮の仕事だろ!」

亮  「無茶言うなよ!俺たちはまだ中学生だよ。普通に戦っても勝てる可能性が低いのに、人質がいるこの状況で勝てる可能性なんかゼロだよ。まだ状況が分かり切ってないから何とも言えないけど。」

颯  「なんだよその含みを持った言い方。わかれば何とかなりそうじゃん」

亮  「俺が何とかするんじゃなくて、湊本人がだよ。あいつたまに誰も思いつかないようなとんでもないことしでかすから。」

彩羽 「確かに湊だったら何かしそうだよね」

有紗 「そしたら私たちがすることって?」

亮  「あいつの行動のサポートがメインかな?それも向こうの状況がわかってからだけどね」

日葵 「まぁとりあえず湊は自分である程度は何とかしちゃうと思うよ。それよりあいつらは絶対に許さないから」

運転中の日葵の殺気を帯びたセリフに4人は一瞬犯人たちの身を案じた。

日葵 「とりあえずいったんこの辺でストップかな。」

日葵は工場まで10mくらいの距離に近づけて、車を止めた。

そして日葵はノートパソコンを取り出し、キーホルダーに接続する。

無事に接続できた。おそらく湊のほうのキーホルダーは振動したはずだ。

このまえの鬼ごっこをしたときに、鬼が15m以内に近づくと振動するように設定しておいたからだ。つけた機能が思わぬところで役に立った。

パソコンから音声が聞こえ始めた。湊が何か交渉している。

だがここまで来ても音声を聞いているだけなら来た意味はない。

日葵は持ってきたバックの中からドローンを取り出した。とても小さいドローンだ。

颯  「日葵さん、それどうやって使うの?」

日葵 「カメラが付いてるからこれでもうちょっと状況がわかるかなって。ただ小さいから風に流されちゃうと使えないんだけど、今使えるかは微妙だけど何もやらないよりはね。」

日葵はドローンを飛ばし始めた。

ドローンを動かしながら中に入れる場所を探すが、なかなか見つからない。

工場のために窓ガラスは比較的高い位置についているために、このドローンでは風の影響を受けすぎて、高い位置まで上がり切れない。

今回はこのドローンは使えないか。と日葵はあきらめ、別の方法を考え始めた。

ー前進ー

そのころ湊は自分がここから救出されやすくなるように自分ができることは全部やろうと考えていた。

自分ができることの中で一番やるべきことは視力を回復させることだ。

今のこの目隠しをされている状況では4人が助けに来ても状況が全く呑み込めない。

さらに逃げる時も大きなタイムラグが生じてしまう。それに目隠しがなくなればできることが格段に広がる。

できる事ならこの手足を開放してもらいたいところだけど、それは実質人質の解放になってしまうから無理だな。というわけで湊は目隠しを外してもらう交渉をすることを決意した。

『さぁここからどうやって交渉を始めようか。』

そもそもこの人達は何のために俺に目隠ししているのだろう?

『移動中なら移動場所を知られたくないとか意味がありそうなんだけど、ここで目隠しを付けたままにする必要あるのか?意外と犯人って俺が顔を知ってる人だったりして。それはないか。違う違う目隠しだ。まぁ話の流れでなんとなく進めていくか。』

湊  「あのー」

男  「なんだ?」

湊  「口は話せるように、ガムテープを取ってくれたのは感謝しているんですが、なぜ目隠しはとってもらえないんでしょうか?」

女  「なぜってなぜ?」

男  「別にわざわざとる理由がなかったからだが、取ってほしいのか?」

『えっ?こんな簡単にとってもらえちゃう流れなの?ふー、あせるなー。百里行くもの九十九里を半ばとすってこの前先生が言ってたし。ここで間違えたら俺の負けだ。逆にとってもらえた段階で俺の勝ち。天下分け目の大勝負だ!』

湊  「とってほしいです。小さいころから暗いのが苦手で」

女  「どーするの?とるの?とらないの?」

俺の会心の演技をガン無視かよ。結構いい出来だと思ったのに・・・

男  「連絡がないし、息子の様子を送ってやるか。よし、取れ」

よし、勝った。女が湊の目隠しをとった。

久しぶりの外の光に目が慣れない。

少しずつ慣れてきたときに湊は写真を撮られていることに気づいたがどうせ送る写真だろうと気にしなかった。

さぁここからが勝負だ!ほとんど勝ったも同然なんだけど。

湊が視点を一点に三秒間集中させた。すると湊の瞳にわずかに光が浮かんだ。湊以外はよく見ても気づかない程度の小さな光だ。

しかし湊の目には『ON』の文字がしっかりと浮かんでいる。

そう、今日ここに連れ去られる前に使っていたコンタクトを起動したのだ。

これがあれば日葵たちのもとへ自分が今見ているものをリアルタイムで送信することができる。

中の状況もよくわかるようになるし、犯人像もよくわかる。

湊がどうしても目隠しを外させたかったのはこれができるからだ。思ったより簡単にいってびっくりしたけど。ふー、とりあえずあいつらからの連絡待ちか。

ー作戦会議2ー

そのころドローンで様子をうかがうのをあきらめた日葵は次にやることを考えていた。するとパソコンに通知が届いた。

有紗 「日葵さん、なんか通知が来てるよ。」

日葵は急いでパソコンを開く。

湊からの連絡であることはわかったので、急いで湊のコンタクトに接続する。2秒くらいの短い時間ではあったが5人にとっては無限にも感じられるようなとても長い時間だった。

パソコンのモニターに湊が見ている景色が送られてくる。レンズの焦点が合うまでに時間がかかっている。時間がたって起動したのと、湊の焦点が合っていないのもあっていつもより調整に時間がかかる。焦点が合い始めた。

彩羽 「なんかフラッシュみたいになってない?」

亮  「さっき目隠しをとるときに送るって言ってた写真でも撮ってるんじゃないの」

颯  「でもさ、やっぱり湊がすごいよな。いくら犯人がコンタクトのこと知らないからって、あんなに自然に目隠しを取らせられる?」

亮  「うん。湊がここまでやってくれたら、あとは俺たちの番だな」

彩羽 「私たちは何するの?」

亮  「とりあえず、犯人の人数の確認と建物の中の配置かな」

映像が少しずつ鮮明になっていく。陽の光が入っていて割と明るい。目視で十分に端から端まで見渡せる。光が逆光になっていて顔までよく見えないが人影は2つある。

颯  「やっぱり二人かな?」

有紗 「二人っぽいね」

彩羽 「ねぇ!どうするの?もう突入する?」

亮  「ちょっと待てって!どの道で入ってどの道で出てくるのか決めないと、そんなに行き当たりばったりじゃ湊を助けられないぞ!それに湊はまだ椅子に縛られたままだから、最低でも30秒は必要だよ。犯人が何持っているのかもわからないし、もう少し湊に任せよう」

日葵はパソコンで文字を打っている。

有紗 「あれ?日葵さん、何してるの?」

日葵 「湊にメッセージを送ってる」

颯  「そんなこともできるの?」

日葵 「今作ったからちゃんと送れるかわからないんだけどね」

彩羽 「えっ、すご」

颯  「日葵さん、一回俺にも送ってみて」

日葵は颯のコンタクトに向けてメッセージを送った。颯の視界に『見えてる?』の文字が送られてきた。

颯  「くっきり見えてるよ!」

グーの手を作って日葵に送る。

彩羽 「日葵さん、湊に何って送ったの?」

日葵は急に笑みを浮かべた。

日葵 「んー?内緒!」

少しずつ光明が見え始めた。

湊のもとに日葵からのメッセージが届いたのは、目隠しがなくなってから5分くらいしてからのことだった。

『ん?何か写ってるな。』

メッセージに気づいた湊は目に集中する。

『愛する弟・湊へ げんきー?お姉ちゃんが助けに来たよ。』

緊迫している状況にいるであろう弟に送るべきではないメッセージに湊は思わず吹き出しそうになる。この場にふさわしくない感情を感じた男が湊に問いかける。

男  「どうした?頭でもおかしくなったか?」

女  「ほっとけばいいよ。こんなところにいつまでもいたらおかしくもなるさ。」

女が無理やり会話を止める形になる。

湊はそんな会話があったことに気も留めず送られてくるメッセージに集中する。

『メッセージが届いてたら視界を右に移動させて』

指示が届いたので、言われた通りに右に移動させる。しばらく待つとまた支持が送られてくる。

『男の顔写して』

よくわからない指示に一瞬疑問を持った湊だったが、自分が置かれている状況を考えて、意図を理解した。

今の角度だと湊から犯人の男の顔はよく写らないのだろう、というよりは湊の肉眼でもよく見えない。

湊はどうすれば男を近づけられるのか考え始めた。

今になって冷静に考えると男が今の位置より近づいてきたことはないことに気づいた。

車で連れ去られた時も背後から湊を車に押し込んだのが男で運転しているのが女だった。

誘拐時について考えれば、力がある男が連れ込むのが当然だとは思うが、顔をはっきりと見せないのは何かの意思を感じる。

なんてことを湊が考えているとまたメッセージが送られてきた。

『犯人が2人だったら右向けて』

より簡単な指示が来たことに少し不満を感じた湊だったが、自分を助けに来てくれたのにそれは違うと、指示に従う。

声の感じといい、気配といいおそらく犯人は男と女の二人。そう考えた湊は先ほどと同様に右へ視界を動かす。

湊が指示に従い、右へ視界を動かしてから5分ほどしてから、さらにメッセージが送られてきた。

『10分後に突入するよ!』

犯人の数がわかったから作戦を立てたのだろう。

湊の右目に600という数字が映し出され1秒ごとに数字が減っていく。

カウントダウンだ。

湊に残された時間は10分。それまでに自分がここから脱出するためにできることはすべてしなくてはならない。間違っても自分以外が傷つくことがあってはいけない。

そう決めた湊は頭をフル回転させ、次にやることを考え始めた。

ー準備ー

残り時間600秒

有紗と彩羽、颯と亮に別れそれぞれの持ち場に向かう。

持ち場に向かう途中、颯が珍しくまともな疑問を亮に投げかけた。

颯  「なぁ亮?なんで男と女のセットにしなかったんだ?安全を考えるんだったら平均的に力を分けたほうがよかったと思うんだけど?」

亮  「ふふっ。颯にしては珍しくいい質問だね。」

颯  「馬鹿にしてんじゃねーよ!」

颯は少しふてくされたそぶりを見せながらも笑いながら亮に話した。そして急にキリッとした印象に変わり、自分のイヤホンを外し、亮のイヤホンも外させ、さらに質問を続ける。

颯  「真面目な話、あいつら2人だけじゃ危険だぞ。足が速いわけでもないし、決断も早くない。」

亮  「わかってるよ颯。だからあいつらを2人にして、俺と颯で組んだんだ。こっちのほうが危険だし、それに・・・」

颯  「それに?」

亮  「颯の運動神経を生かすんだったら俺と組んでもらったほうがいい。颯が有紗や彩羽と組んで、狙われたら絶対に助けに行くだろ?行動としては間違ってないけどそれだと湊を助けられた後に逃げ切れる確率がほとんどなくなる。それに最悪あいつらが危なかったら日葵さんに助けてもらうように頼んである。あの人だったらうまくやってくれるでしょ。」

亮の返答を聞いた颯が笑みを浮かべる。

颯  「亮!お前やっぱすげーな。そこまで考えてるんだな。よし久しぶりに本気出しますか」

亮も笑みを浮かべる。

亮  「心強いよ颯。頼りにしてるよ。動けるのがお前の強みだから」

場所は変わって有紗と彩羽の会話。

彩羽 「今から湊助けに突入だってよ。ドキドキするね有紗」

有紗 「彩羽は相変わらずだね。私は少し怖いよ。」

彩羽 「だいじょーぶだって。今からそんなに怖がってたら何もできないよ?」

有紗 「それはわかってるんだけどさ、颯と亮がおとりになるってことは・・・」

彩羽 「なに有紗、あいつらの心配もしてるの?大丈夫だよ。あの頭のいい亮とあのバカな颯が組んでるんだよ。何とかなるって」

有紗 「あのバカなって颯かわいそう」

有紗が笑いながら言った。

彩羽 「あれ?ほめたつもりだったんだけどなー?」

彩羽も笑う。

少しの間だけいつもの日常が訪れた。

残り450秒

ーシンクロー

少し時が戻って

残り600秒

一方、監禁されている湊は残りの時間が減っていく中で自分にできることを考えていたのだが・・・

『うーん今の俺にできる事なんてこれ以上あるのか?

これ以上監禁を緩める交渉をするのはすごくリスクが高いしな。

できるかどうかもわからない交渉をして警戒レベルを引き上げるくらいだったら、ここでは何もせずに、あいつらがどうやって助けに来るかを考えて、そっちに合わせに行ったほうがいい気がする。

もし俺が助けに行くとしたらどうやって助けようか?

犯人が2人なのはわかっているから、突入はするだろう。

でも犯人が2人なのは人数で対応するとして、武器はどうする?

犯人が拳銃を持っていたら数の利なんて吹き飛ぶ。

1人やっつけたとしても俺がここにいる限り、俺さえ押さえておけばそれ以上できることはないな。

んー、そしたら犯人を俺から引き離すのはマストだろ。

その役をやるのは、颯か。運動神経がいいあいつだったら1人だったらどうにでもなる気がする。

ひきつけておけばいいだけだからな。そうなると、もう1人を引き離すには・・・』

湊は後ろをちらっと見てドアを確認する。

『ドアの数は前に1つと後ろに1つか。

もう1人は別のドアのほうに引き離すかな?

いや違うなそうなると俺をここから解放するために入ってこれなくなるから1つのドアで2人か。

ふー1つのドアに2人をひきつけるには・・・時間差か!

まず一人をひきつけておいて、その1人は奇襲で抑える。

戻ってこないその一人を確認するためにドアへ向かったところで逆から俺を開放してそのまま逃げる。うん。たぶんこれであってる。』

湊が考えている通り作戦については概ねあっている。ただ唯一決定的に違うところがあった。

『となると、姉ちゃんが車で待機して、指示を出すだろ。

だから4人は2人と2人に分けることになるから、バランスをとるためには亮と彩羽、颯と有紗に分かれるのか。

俺の見ている景色は送れてるはずだから、前のドアに颯たちで後ろのドアに亮たちだな』

湊はドアまでの距離が前のドアまでのほうが離れていることから、前のドアにおとりとなる颯たちが来ると判断した。ここまでの考え方はあっている。

亮の作戦と決定的に違ったのはペアの組み方だ。そしてその決定的な違いは置かれている状況によって生まれた。

亮は外の様子がわかっているために車までの距離がより近い後ろのドアのほうに女子2人を配置した。

危険の少ない湊を助けるという役目を任せるとともに、脱出の際に車までの距離が近いほうに配置することによって走力を補うという狙いがある。

それに対して湊は自分が今工場にいるということはわかっても、外の様子まではわかっていない。そうなると力を平均的にしたほうが、脱出の成功率は高くなると判断した。

とはいえ、作戦はほとんど当たっている。そしてこの2人のシンクロ率が脱出の成功率におおきな変化をもたらすことになる。

ー準備ー

残り300秒

それぞれが持ち場についた。残り時間が5分。

各々の緊張が高まっていく。それでも5分は今の彼らにとって、今まで経験したことがない5分間だった。

1秒1秒がすごく長い。この5分間は大切な5分間だ。

逃げる際に邪魔になるものはないのか、もしもの時どこを通ればいいのか、きちんと見て、考える。

颯  「おい!亮、あの車見えるか?さっきからずっとあそこに止まってるけど。」

亮  「は?どこ?」

颯  「手前の雑木林の奥のほう」

亮  「ちょっと待って」

そういって亮はコンタクトの望遠機能を使って、焦点を奥のほうに合わす。確かに大きな車が見える。スモークガラスになっているように見えるが、特別に変なところは見られない。

亮  「見えたけど、別に普通のでかい車じゃない?それよりさっきからって言ってたけど、だいぶ前からあんなところまで見てたの?」

颯  「人が出たり入ったりしてるから、変な車だなって思って」

ちなみに亮がコンタクトの望遠機能を使ってみていた車を颯は裸眼で見ている。

亮が目が悪いという訳ではなく、颯の目が特別に良い。

でも颯は『眼鏡をかけたほうが頭がよさそうじゃん』と言って普段は眼鏡をかけて生活している。

それもあってみんながコンタクトをつけている中で、1人だけ日葵に眼鏡にしてもらって、眼鏡をつけている。

残り150秒

日葵 「みんな聞こえる?湊が見ている工場の中の風景を送るから、イメージトレーニングして。特に颯くんと亮くんはよくして。彩羽ちゃんと有紗ちゃんは湊を助けてから逃げるまでのコースを確認して。湊までの距離は近いから、タイミングだね。こっちで指示を出すから、ちゃんと聞いておいて。」

4人に映像が送られてくる。

颯  「工場って思ってたより、見通しいいんだな。こっちのドアを開けるとすぐに湊までみえるぜ。」

亮  「荷物運ぶのに真ん中は開いてたほうが便利だからな。その分壁のほうは死角だらけだ。」

颯  「一応死角にも気を付けておいたほうがいいな。」

亮  「気を付けておいたほうがいいのはいいけど、俺らはできれば工場の中には入らないほうがいいんだからな。」

颯  「うん。わかってる。」

それぞれが作戦を確認する。

ー緊張ー

残り60秒

残り時間が1分になったところで、颯と亮が持っている武器を確認する。

まずはドローン。これはさっきまで日葵が使っていたものだ。

外からの偵察にはうまく使うことができなかったが、突入することになった今、入口があるのなら中に侵入させることは容易になった。

武器としてうまく使えれば拘束されるリスクは低くできるだろう。

それに加えて、ロープとガムテープそれから袋は持っている。

あとは今更言うまでもなく、コンタクト、イヤホンは身に着けている。

ついでに颯がSecret Portを出るときに3人に馬鹿にされながらも持ってきた修学旅行の木刀といったところだ。これらの武器で犯人たちと戦うことになる。

颯の心臓の音が亮の耳にまで聞こえてくる。亮達の目の数字は15、14、13と減っていく。

この状況で緊張するなというほうが無理だ。亮も自分に心臓の音が大きいことはわかっている。

『俺の心臓の音も颯に聞こえてるだろうな』と亮が思っていると、颯が亮のほうを見て笑いかける。

颯が緊張で頭がおかしくなったわけではない。颯はスポーツマンなので過度の緊張がパフォーマンスに悪い影響を及ぼすことを何となくわかっていた。

そんなときに緊張を緩和するためにしているのが『笑う』ことだ。

無理やりにでも笑うことで、本来の自分が持っている能力を限界まで出し切ることができる。

颯の今までの経験から生み出されたルーティンといえる。

颯が笑っているのを見て亮も笑った。『本当に大したやつだよ』と思いながら、減っていく数字に反して、2人の集中力は上がっていく。

ー救出1ー

3、2、1、0

カウントダウンが0になった。亮と颯の2人は顔を見合わせ、亮はドアの左側、颯はドアの真ん中に立ち、颯が中に向かって声を低くして話しかける。

颯  「すみませーん。この工場を撤去するということで、撤去にあたりましてドアを開けておいていただくお約束だったのですが、中に人はいませんかー?物音がするようなので誰かいらっしゃるのであればでてきてくださーい。いないようであれば取り壊しを始めまーす。」

もちろんこんな話は中の犯人をおびき出すための嘘だ。

作戦を立てるときに、おびき出すために、外から大きな音を立てておびき出すという考えもあったのだが、わざわざ警戒心を高める必要はないということでこのセリフになった。

亮  「日葵さん、湊からのにかえて」

亮と颯のコンタクトとイヤホンに湊からの映像、音声が送られてくる。

女  「ねぇどうするの?」

男  「ちっ、お前が出て1時間だけ延ばしてもらえるように交渉してこい。間違ってもこの中に入れるな。話は外でしろ!」

女  「ったくなんでこのタイミングで」

そういいながら女は亮達がいるドアのほうへ向かってくる。

『よしまずは第一段階成功!』そう思いながらも次へ向けて集中力を切らさない亮だった。

そのころ中にいる湊は自分が思っていた通りの作戦であることに確信を強めながら、女が声のするドアのほうにいく様子だけはわかっていたが、夕日で姿ははっきりとは見えていない。

『肉眼でこの見え方だと送信されている映像はほとんど見えないだろうな』と湊は思ったが、その通りだった。

颯  「おい、亮そっちでは見えてる?」

亮  「見えてないから、たぶん見え方は一緒。影の距離間でタイミングはわかるよ。あとは音に注意して。」

颯が親指と人差し指で丸を作った。

女の足跡が少しずつ近づいてくる。颯がドアの右側に移る。

1歩1歩足音が大きくなってくる。2人が息をのむ。今まで以上に時の流れが遅い。

足跡が消えた。おそらくドアの前にいるのだろう。壁1枚を隔てて向こう側に犯人の1人がいる。

チャンスは1回。女がドアを開けた。まだ拘束するには早い。

完全にドアの外に出てきてからでないと、中に戻られてしまう可能性がある。女の角度からでは2人の姿は見えない。

女  「ちょっとー?なんでいないの?」

女が外をのぞくために2歩外に出てきた。

その瞬間颯が頭の上から袋をかぶせ、亮はドアを閉める。

突然の出来事に女は何が起きたのか全然呑み込めていない。

女の手を後ろで縛り、地面に座らせる。手が拘束されていると意外と人は立てない。そしてさらに追い打ちをかける。

颯  「そこから動くな。しゃべるな。」

颯が低い声で脅しをかける。

颯  「おい亮こいつどうする?」

亮  「山にでも埋めに行こっか」

亮は柔らかい優しい声で言う。

その声には深みがあって、とても中学生が出せるような声ではない。女は震え始めた。

亮  「なーんてね。そんな時間がないからその辺の木にでも括り付けておけばいいよ」

いつものこととはいえ普通にこのようなことを言える亮に颯は少し怖さを感じた。

ー救出2ー

湊から送られてくる映像に集中を傾け、男が中にいることを確認する。

まだ男は動いていない様子だった。おそらく陽の光のせいでドアの奥で何が行われたのか見えていなかったのであろう。

亮たちを苦しめた陽の光がここでは亮たちに味方した。

男が動かないことを確認した2人は女を木に括り付けた。

そしてまたドアのほうへ戻る。長い時間女が戻ってこなければ、しびれを切らしてこちらにくるはずだ。そのタイミングで湊を助け出す手筈になっている。

『まったく今日は時間が流れるのが遅いな』と思いながら、男がこちらに来るのを待つ2人だった。

男  「おい!どうなってんだよ!」

男が怒号を上げる。

『工場を壊すことを少し先延ばししに行った女がいつまでたっても戻ってこない。

時間的に考えてもおそらく女は逮捕されたか、何かに巻き込まれていると考えるのが自然だ。

となると今ここで誘拐しているのもばれている。』

というところまで湊は男の考えを読み取る。

『ここで男がとれる方法は2つ。

1つ目は俺をこのまま拘束してここに閉じこもる。2つ目は男が俺を置いてここから離れる。

1つ目は割と無理ゲーに近いと思うと思うんだよな。

出入口が2つでこの広さの工場に対して1人で閉じこもるのは。

2つ目は逃げる確率は高くなるんだけど目的はもう達成できなくなるんだよな。

ただこの男の要求も抽象的でよくわからないし、どうなるか。

でも俺を連れて逃げるのは選択として最悪手だと思うんだよな。

連れて逃げるんだったら俺をある程度開放しなきゃいけないし。でもたぶんとりあえず外の様子見に行くと思うんだけど・・・』

湊がここまで考えたところで男が湊のほうによって来た。男は湊の髪をつかんで顔を近づける。

男  「ここから動くなよ!まぁ動きたくても動けないだろうけどな」

少し落ち着いてきたのか、頭がいかれたのか冷静な様子になった。

このやり取りはもちろん外の5人にも聞こえている。

颯  「おい亮くるぞ!」

亮  「あぁ、うんわかってる。」

亮は少し何かを考えている。『あの男の顔どこかで見たことある気がするんだけど』ただいまは考えてられる状況ではないので目の前に集中する。

亮  「有紗、彩羽聞こえてる?男がこっちに来たら、タイミング見て湊を助けて。」なんかあったら一番に逃げて」

有紗 「うん」

彩羽 「わかってるって」

男が来ることに備えて、颯と亮はそれぞれ工場の側面に隠れる。

男がドアを開けるとまず最初に木に括り付けられた女が見えるようになっている。

そこで男がとる行動によって作戦を変えるつもりだ。注意をひきつけて時間を稼ぐことが目的なので、やりようはいくらでもある。

男がドアのほうに近づいてくる。

亮は男の動きに目を集中させる。このタイミングがとても重要になってくる。

男がドアに手をかけ、少しづつドアを開け外の様子をうかがう。

男は相手は警察だと思っているので、下手に動けない。

これがすでに中学生だとわかっていたら、男の行動が変わっていたはずだ。

男はドアの隙間から女の姿が確認できるくらいにドアを開けた。はたして男はどのような行動をとるのか!?

男が木に括り付けられた女が見えるくらいにドアを開いた。亮と颯は男の行動に注視する。

男が女を助けに行くのなら、工場の中に逃げ込むのもありだ。

が、罠だと考えて出てこなければ、湊を助けに行くのは難しくなる。男の動きが少し止まった。

何をするのか考えているのだろう。ドアから少し頭を出して、周囲の様子をうかがっている。

男がドアから外に少しずつ出てきた。女を助けに行くようだ。

颯  「亮、どうする?」

亮  「彩羽、有紗聞こえる?今ならいけるから、湊を助けに行って」

有紗 「彩羽行こう!」

彩羽 「りょーかい」

亮  「颯、俺らも中に入ろう。中で合流したほうがいいと思う」

颯  「おっけー。タイミングだけ言って」

彩羽と有紗が湊を助けるために工場の中に向かう。古い工場なだけあって、ドアに鍵がかかっていない。

有紗 「亮、こっち側の鍵がかかってなかったから、たぶんそっちもかからないかもよ」

亮  「了解!サンキュー」

工場の鍵がかからないということは、そこに閉じこもるつもりはなかったということになる。

『なんか全体的に雑だよな』と思いながら、亮はタイミングを見計らう。

男が女のもとに近づいていく。人が周りにいないので、安心しているのか視野が狭まっている。

亮  「颯、行くぞ」

2人がドアのほうへ向かう。

男は背後の気配には全く気付いていない。できるだけ音をたてないように、できるだけ早く工場の中に入った。そしてドアを閉める。

予想通りドアには鍵がかからないようになっていたので、持ってくるときに散々に言われた颯の木刀をつっかえ棒として使う。これで簡単には入ってこられないはずだ。

一段落ついた、亮と颯は湊のほうへ向かう。彩羽と有紗によって湊は拘束を解かれていた。

湊  「みんな、ありがとう」

そんなに時間がたっているわけではないのに数日ぶりに会ったような気がしている。

彩羽と有紗の目にはうっすら涙がうかんでいた。

亮  「はいはい、再会の感傷に浸っているところ悪いけど、ここから逃げるよ」

5人は日葵のもとへ向かう。女子2人を前に走らせ、後ろを警戒しながら男子3人が追う。

日葵の車に乗り込み、この場所を離れる。

ー完全解決ー

彩羽 「あー湊が無事でよかった。でもさ、結局あいつらって何だったの?」

亮  「そう、そのことなんだけどさ、湊あの男の顔見た?」

湊  「最後に近づいてきたときに見たけど・・・」

湊が少し間を開ける。

湊  「たぶん亮と同じこと考えてるぜ」

颯  「俺も同じこと考えてますー」

彩羽 「なに?わかってないのって私たちだけ?有紗はわかってる?」

有紗 「ううん。なにもわかんない」

湊  「姉ちゃん!」

日葵 「はいはい」

どうやら日葵もわかっている様子だ。日葵は車を工場の元へ走らせる。

せっかく脱出することができたのに湊は日葵に頼んで車を工場へ向かわせた。

工場からそう遠くは離れていなかったので、工場に戻るのにもそう時間はかからなかった。

車を工場の近くに止め、6人は車から降りて、工場の中に向かう。

亮  「湊どう?あいつらいる?」

湊  「いるよ」

颯  「じゃあ、中に入りますか」

彩羽 「え?全然意味わかってないんだけど、ほんとに今から中に入るの?」

有紗 「本当に大丈夫?」

湊  「大丈夫だって!」

半ば無理やり湊たちは工場の中にはいっていく。するとそこには、湊を誘拐した男と女がいた。

男  「な!おまえは・・・」

男は逃げたはずの湊が目の前にいることに驚き、言葉が続かない。男の言葉を補うかのように女が叫んだ。

女  「なんでお前がここにいるんだよ!」

湊  「あんたら間違ってるよ」

湊が突然犯人たちに説教をし始めたかと思ったが、

湊  「俺は役者じゃない」

男  「?」

女  「?」

有紗 「?」

彩羽 「?」

状況を理解していない人たちに驚きが表れる。

湊  「だから俺は俳優じゃないし、子役でもないの」

湊はさも当然化のように言うが、まだ理解してはいない。

湊  「今映画とってるんでしょ!」

颯  「だいぶ前にテレビの『職人』で岸田大成監督が出てた時があって、監督は1回もカットせずに映画を撮るって言ってたよ。俳優たちにはキャストを伝えずに、おおざっぱにストリーだけ伝えて自然に出てくるセリフでとるんだって」

亮  「しかもその時、『義賊』の2作目を作るって言ってたから、1作目と同じようにこの辺で撮ってるのかなと思って」

湊、颯、亮が順番に答えに至った経緯を説明する。

ちなみに『職人』とはテレビのドキュメンタリー番組で各分野の職人たちに密着するというもの。

『義賊』は数年前に日本中で大ヒットした映画で世界的名監督岸田大成がつくった映画になる。

亮が言い終えたところで有紗が何かに気づいた。

有紗 「あっ!」

湊  「そうでしょ俳優の田畑浩司さんと女優の猪飼紗良さん」

彩羽も遅れて気づく。

彩羽 「本当だ。全然気づかなかった」

有紗も彩羽も湊を助けに行くという極度の緊張状態で送られた来る映像の細かいところまで見る余裕はなかったために、いま気づくこととなった。

すると、工場の奥のほうから声がした。

男  「はーっはっはー。よくそこまで気づいたな坊主たち。」

田畑 「監督!」

監督と呼ばれるその男こそ、映画監督岸田大成だった。

岸田 「いやー悪かったな」

豪快に笑いながら岸田は湊たちに謝った。

猪飼 「ちょっと監督一体どうなってるんですか?」

岸田 「まだわからないのか。この坊主たちはただの一般人、ただの中学生だ」

猪飼 「この子たちがただの中学生!?」

岸田 「確かにただの中学生というにしては普通ではないな」

岸田はそういいながら湊たちのほうを向く。

湊  「俺たちただの中学生だよな?」

そういって湊は5人のほうに振り向く。

4人 「うん!」

亮たちがことの経緯を説明する。

湊たちと岸田たちとの話を要約するとこうだ。

前回『義賊』の1作目を湊たちが住んでいる街で撮影した。

映画の大ヒットもあって湊たちの街には聖地巡礼ということでたくさんの人が訪れていた。

それが1月ほど前に公式で、映画の続編を撮影するために聖地巡礼を控えるように呼び掛けた。

続編を待ち望んでいた人々は聖地巡礼を控えるようになった。

もっとも数年前の映画だったこともあって、それほどの人数が来ていたわけではないのだが。

そんな経緯があって、無事に続編の撮影をすることになった訳だったが、岸田監督の作品ということもあって脚本にはこだわらないために、田畑と猪飼にはおおざっぱに指示が与えられた。その指示はある道路を歩いている男の子を誘拐、そのまま工場に連れていくというものだった。

本来であれば子役の男の子(ここでは仮にかい君とする)が誘拐される予定だったのだが、2人が間違えて湊を誘拐してしまった。工場に着き、かい君の父親に解放と引き換えの要求を電話する。

2人はかい君が一人っ子であると聞いていたので、湊が姉の話をしだしたときには困惑したらしい。

さらに困惑したのは、人質でしゃべらないはずの子役がすごくしゃべり始めたこと。

普通に拘束を緩めるために交渉をし始めたとき、『監督が連れてきた子役だけあってアドリブがきくな』と思ったと田畑は言っていた。

しかしそんなことは序章。

もっと困惑したのは全く予定になかった、工場を立て壊しに人が来たとき応答に向かった猪飼が戻ってこなかったときだった。

田畑は、もはや自分たちが事件に巻き込まれたのではないかと思いながら、猪飼の様子を見にドアを開け、外の様子を伺った。

そこでなぜか木に括り付けられた猪飼を見つけた時パニックになり、思考が完全に停止したという。

猪飼もただ話に向かっただけなのに、ドアを開け外に出ると視界が真っ暗になり、脅された挙句木に括り付けられたため完全に何か別の事件に末期こまれたと思ったと話した。

一方で亮たちは仲間である湊が誘拐されたと思ったこと。キーホルダーから湊の状況が何となくわかっていたこと。

コンタクトレンズのこと。田畑と猪飼が疑問に思っていたことを1つずつ説明していった。

そんな状況を完全に理解していたのが岸田監督だった。前もって仕掛けてあったカメラを見ながら、自分が当初思っていた方向と180°違う方向に向かっていたため、わくわくが止まらず、近くの車から様子を見ていた。

湊を救出する前に、颯が見つけた車が監督が乗っていた車だったようだ

ーエピローグー

一通り話が終わり、何が起きたのか完全に理解した田畑と猪飼は次第に監督への怒りが高まっていた。

田畑 「監督わかってますか?この子たちが警察に言ったら完全に誘拐ですよ」

猪飼 「ほんとうにごめんね。まだ中学生の君にこんなに怖い思いさせて。怖かったよね」

そういって猪飼は湊の頭をなでる。突然の出来事に湊に思わず笑みがこぼれる。

彩羽 「あー湊すっごいうれしそう」

颯  「やめてやれよ、彩羽。湊は怖い思いしたんだから」

そういう颯も笑いながら湊をおちょくる。

岸田 「はーっはっはー、いやいや本当にすまなかったな坊主」

田畑と猪飼 「監督!」

田畑 「申し訳ない湊君。もし僕たちにできることがあれば何でもするから許してくれないか」

湊  「いやー面白かったですよ。岸田監督の映画の撮影を経験できて、田畑さんや猪飼さんを生で見られて、今日は最高の1日です。」

猪飼 「ありがとう。連絡先を渡しとくから何かあったら連絡して。」

岸田 「いつでも連絡してこい!車をすっ飛ばしてきてやる」

田畑 「はー監督少し静かにしていてください」

湊は3人の連絡先を受け取る。

湊  「早速なんですけどお願いしてもいいですか?」

田畑 「なんだい?」

湊  「みんなで一緒に写真撮ってもらえませんか?」

田畑 「お安い御用だよ」

彩羽 「やったー。田畑さんと猪飼さんと一緒に写真撮れる日が来るなんて。湊が誘拐されてよかった」

湊  「おいおい」

どこからかカメラマンがやってきた。

カメ 「はい、じゃあとるよー。はいチーズ!」

パシャッ

この1日でできたつながりが今後のSecret portでの活動に大きな財産となっていく。

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  • Twitterアカウント @mutsumura

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